岡山地方裁判所 平成8年(ワ)342号 判決 1997年3月25日
原告
村上勝一
被告
鈴木直行
主文
一 被告は、原告に対し、金六七七六万三三三四円及びこれに対する平成七年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一億〇五一七万三九三四円及びこれに対する平成七年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故の被害者である原告が、被告に対し、民法七〇九条または自賠法三条に基づき損害賠償請求をした事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
平成七年一月一五日午後四時二〇分ころ、岡山県備前市畠田七〇番地の一先県道西大寺備前線において、原告の運転する普通貨物自動車と被告の運転する普通乗用車が、交通事故を起こした。(以下、本件交通事故という。)
2 被告の責任
被告は、民法七〇九条または自賠法三条の責任を負う。
3 原告の傷害
原告は、本件交通事故により、頸髄損傷、第五頸椎前方脱臼、第六頸椎横突起骨折、右手関節打撲の傷害を負つた。
4 治療状況
原告は、平成七年一月一五日から同月二〇日(六日間)まで岡村一心堂病院に入院し、同月二〇日から同年八月二二日(二一五日)まで竜操整形外科病院に入院し、平成七年八月二二日症状固定した(通算入院日数二二〇日)。
二 争点
1 事故の態様
2 損害額
3 過失相殺割合
第二争点に対する判断
一 事故の態様について
証拠(乙一ないし四)によれば、本件交通事故の態様は、以下のとおりである。
1 本件交通事故現場は、変形三差路交差点になつており、幹線道路である県道西大寺備前線に脇道が西側から接続しており、右交差点には、車両用の信号機は設置されていない。県道のセンターラインは、右脇道を貫いており、脇道に対して優先道路となつている。
2 原告は、普通貨物自動車を運転して、幹線道路である県道西大寺備前線(指定最高速度四〇キロメートル毎時)を、約七〇キロメートル毎時のスピードで北進していた。
3 被告は、普通乗用車を運転して、原告進行方向西側の脇道から右折して県道西大寺備前線に進入した。
4 本件交通事故現場の原告進行方向手前は、緩い左カーブになつており、交差点手前に左側に生垣があるので見通しが悪く、双方とも相手方車両に気付きにくい。
5 原告進行方向の右側にカーブミラーが設置してあるが、接近しないと見にくいので、県道西大寺備前線進行車両から脇道の車両の存在を早めに発見するのは困難である。一方、脇道の車両は通常徐行かそれに近い速度で進行するので、脇道の車両が前記カーブミラーによつて、県道西大寺備前線進行車両を発見するのは困難ではない。
6 原告運転車両が、上記交差点手前に差し掛かつたとき対向車両が南進してきた。右対向車とすれ違つた直後左の脇道から被告車両が飛び出してきた。
7 原告は、被告車両との衝突を避けるため急ブレーキをかけると共にハンドルを左に切つた。原告車両と被告車両との衝突は避けられたが、原告車両は、交差点内の段差に左側の車輪を取られて横転し、脇道上を転がつていき、脇道左側に駐車していた車両に衝突して停止した。
二 損害額
1 治療費 七五七万八五七九円
甲六ないし二二によると、本件交通事故以後症状固定までの間の治療に対する労災保険の療養給付として医療機関に支払われた金額合計七五一万六五一三円並びに原告の自己負担分一万五八二六円(岡村一心堂病院分、ただし診断書一通の費用分を除く。)及び四万六二四〇円(竜操整形外科病院分)の合計額として認められる。
2 装具代 九七七二円
甲二三によつて認められる。
3 入院雑費 二六万四〇〇〇円
一日当たりの入院雑費を一二〇〇円相当とし、その二二〇日分
4 親族付添費 九九万円
証人村上百枝の証言によると、原告は、本件交通事故により、入院中日常の起居動作、体位変換、排泄動作をすることができず、母親及び姉が入院期間中付添介護したことが認められる。一日当たりの付添費を四五〇〇円とし、その二二〇日分
5 休業損害 一五六万三三二〇円
甲二七の一、二、証人村上百枝の証言によると、原告は、本件交通事故当時、マルケー商事株式会社に勤務し、前年(平成六年)の年収額は、二五九万三八六九円であり、事故後は全く稼働できなかつたことが認められる。症状固定までの休業損害は、二五九万三八六九円÷三六五日×二二〇日=一五六万三四二七円となる。ただし、原告の請求額一五六万三三二〇円を採用する。
6 逸失利益 四五五一万一七六六円
甲一五によると、原告は、本件交通事故により、第六頸椎以下の完全麻痺、両下肢自動運動なし、両上腕三頭筋自動運動なし、第七頸髄節以下の知覚脱失(完全)、膀胱直腸障害(完全)、座位及び起立歩行全く不能の症状を呈しており、後遺障害等級一級の障害に該当し、労働能力喪失率は一〇〇パーセントと認められる。原告は、昭和四六年四月二六日生まれで、症状固定時二四歳であり、就労可能年数四三年、これに対応するライプニツツ係数は、一七・五四五九であるから、逸失利益は、次のようになる。
二五九万三八六九円×一七・五四五九=四五五一万一七六六円
7 後遺症慰藉料 二〇〇〇万円
前記後遺障害により、両下肢の機能が全廃し、両上肢に高度の機能障害があり、導尿を要することとなつたものであつて、これを慰謝するには、二〇〇〇万円が相当である。
8 自宅改造費 八一万六四〇〇円
甲二四ないし二六、二九、三〇、証人村上百枝の証言によると、原告の車椅子が通れるように、自宅を改造した費用として八一万六四〇〇円が認められる。
9 将来の介護費用 六七五〇万〇九一〇円
証人村上百枝の証言によると、原告は、前記後遺障害により終身常時介護を要することとなり、現在はやむを得ず母親が介護しているが、職業付添婦に介護させる必要があることが認められる。職業付添婦の報酬は日額一万円を相当と認め、症状固定時の原告の年齢二四歳に対応する平均余命は、五三・五一年(平成六年簡易生命表による)であり、これのライプニツツ係数は、一八・四九三四であるから、将来の介護費用は、次のようになる(ただし、一年三六五日とした。)。
一万円×三六五日×一八・四九三四=六七五〇万〇九一〇円
10 合計額
以上を合計すると、一億四四二三万四七四七円となる。
三 過失相殺
前記認定の本件交通事故の事故態様によると、原告走行車線は、被告走行車線に対し優先道路となるから、被告車両の明らかな先入などの事情がない限り、原告には減速徐行する義務はなく、被告は、原告車両の進行を妨害しないよう原告車両の通過を待つて交差点に進入すべき注意義務があつた。
原告には、若干の危険認知の遅れが認められる(乙四)としても、本件事故現場の原告進行方向手前は緩い左カーブになつており、交差点手前左側の生垣によつて見通しが悪く、原告車両走行中に被告車両が脇道から進入してくるのをカーブミラーにより発見するのは接近しないと困難であることからすると、危険認知の遅れは、原告の前方不注視の一形態として基本的過失割合(原告二割・被告八割)の中に包摂させて考慮すべきであり、むしろ、危険認知の遅れがなかつたことが、原告の過失相殺割合の減殺要素となるものと考えるのが相当である。
また、原告車両の横転は、被告車両との衝突を避けるため、急制動の措置を講じると共に左に急転把したことから、交差点内の段差に左側の車輪を取られて生じたものであり、原告のブレーキ、ハンドル操作が不適切であつたものとは認めがたい。
さらに、原告車両と被告車両が接触しなかつたことは、原告の衝突回避措置によつて生じたもので、これを過失相殺の原告側加算要素として考慮することはできない。
結局、原告側の過失相殺の加算要素としては、法定速度をかなり上廻るスピードで走行した過失として、一割加算し三割とするのが相当である。
過失相殺後の原告の損害額は、一億〇〇九六万四三二二円となる。
一億四四二三万四七四七円×〇・七=一億〇〇九六万四三二二円
四 右金額から、自賠責保険からの既払分三一一八万二一八六円(当事者間に争いがない。)及び弁論の全趣旨から認められる労災保険からの給付金八一七万八八〇二円(治療費分七五一万六五一三円・休業補償分六六万二二八九円)の合計三九三六万〇九八八円を控除すると、六一六〇万三三三四円となる。
五 弁護士費用としては、右金額の約一割の六一六万円を相当と認める。
六 以上の合計額六七七六万三三三四円及びこれに対する本件交通事故の日である平成七年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。
(裁判官 重富朗)